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4話 逃亡、追撃、既視感 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」 女賢者は走っていた。森の中に作られた山道を。 体力にも持久力にも自信は無かったが、走るしか無かった。 背後に危険が迫ってきているから。 青い髪の美少女の十数メートル後ろから、右手に鉈を持った豹獣人の青年が、 血走った目で女賢者を追走していた。 「ゼエ、ゼエ、逃がすか……!」 殺気が籠ったその口調から、青年が女賢者を殺そうとしているのは明らかだった。 (何で、何でこんな事になってるの!? 誰か、誰か助けて……!) 勇者達仲間と共に大魔王ゾーマを打倒し、平和な毎日を送っていたと言うのに。 いきなりバトルロワイアルという殺し合いゲームの参加者となってしまった。 首には無理に外そうとしたりすれば爆発する首輪。 そして、自分が肩から提げているデイパックに入っていた、鋭い刃を持つ大型ナイフと、 なぜか何の変哲も無いラッパ。 何より、自分が今、豹の頭をした獣人に追われているという事実が、 殺し合いの場に立たされているという現実を否応無しに自覚させられた。 とにかく足場の余り良く無い山道を走る女賢者。 だがこのままでは明らかに体力に勝る豹青年に追い付かれるだろう。 疲労と焦りで思考回路も上手く働かない。 分かってはいても走り続けるという選択肢しか彼女は選べなかった。 茶髪セミロングの少女、北沢樹里は、自分のスタート地点の山道で、 周囲の風景を見回していた。 木漏れ日の差し込む森が広がっている。 「まさか、生き返ってまた殺し合いをやる事になるなんて……」 彼女は、一度別の殺し合いで死んだ身のはずだった。 死んだ理由は――痴情のもつれ、である。これ以上は言うまい。 とにかく死んだ筈なのに、自分は今こうして生きており、立っている。呼吸もしている。 それに――。 「足、治ってる……」 失った筈の右足が、何事も無かったかのように元通りになっていた。 走る事が何よりの生きがいで、それを失い絶望し自暴自棄になっていた彼女にとって、 これ程嬉しい事は無い。 しかし――殺し合いという状況からは抜け出せていない。 「これ……愛餓夫が使ってた銃に良く似てるけど」 自分の支給品であるレバーアクション式小銃――ウィンチェスターM1873を持ち、 まじまじと見詰める樹里。 この他にもう一つの支給品として、栄養ドリンクセットが入っていた。 説明書がかなり親切だったため、M1873の使い方は一通り覚えた。 次の問題は、これを使い殺し合いに乗るか、それとも抗うか、だが。 「ど、どいてえっ!!」 「え? ……べっ!?」 背後から聞こえた声に振り向いた直後、かなりの勢いで走ってきた何者かと激突する樹里。 そのまま、その人物と共に地面に倒れ込んでしまう。 「いたたた……ちょっと何……?」 強かにぶつけた尻を擦りながら樹里が自分にぶつかった人物を確認する。 それは青い髪の、同じく青いマントに白い丈の短いローブを身に纏った、 そしてかなりスタイルの良い美少女。自分と同年代と思われる。 「ご、ごめんなさい……」 「い、いや……どうしたの? 誰かに追われ――!」 「ゼエ、ゼエ、やっと追い着いたぜ」 樹里が青髪の少女が走ってきたと思われる道の向こうから、 殺気立った豹獣人の青年が現れたのを確認する。 どうやら少女はあの豹青年に追われてきたらしい。 「ん? もう一人増えてるな……まあいい、二人とも殺るだけだ!!」 豹青年が手に持った鉈で樹里と少女――女賢者に襲い掛かる。 (やばい!) 身の危険を感じた樹里は咄嗟に落ちていたM1873を手に取り、 豹青年に銃口を向け、引き金を引いた。 「がっ……!」 銃声が響き、豹青年の右肩から鮮血が噴き出した。 「があああああ!! いってえええ……!!」 余りの激痛に傷口を左手で押さえて苦しむ豹青年。 そして樹里を一度睨み付けると、元来た道を走って逃げて行った。 M1873のレバーを操作し空薬莢を排出、次弾が撃てる状態にし、 樹里はまだ地面にへたり込んでいる女賢者の元へ近付いた。 「貴方大丈夫? 随分走ってきたみたいだけど」 「は、はい……ありがとうございます。助かりました」 女賢者は死に直面し必死に走ってきたせいか、息が荒く震えていた。 「私は北沢樹里。貴方は?」 「私は……フィーナって言います」 「フィーナ? 名簿にはそんな名前無かったけど……」 既に名簿は確認していた樹里は、女賢者の本名、フィーナには覚えが無かった。 「はい、私、『女賢者』という名前で名簿には書かれているんです」 「女賢者? ……何それ」 「私、賢者なんです」 「……はぁ??」 樹里には女賢者の言っている事がまるで理解出来なかった。 当然である、樹里の世界で言う賢者と、女賢者の世界で言う賢者は全くの別物なのだから。 話が上手く通じない事に困惑する女賢者。 「……まあいいわ。こんな所で立ち止まってても危ないから歩きながら話しよう」 「は、はい」 余りじっとしているのも危険だと考え、樹里はまだ震えている女賢者をそっと立たせ、 山道を歩きながら話し合ってみる事にした。 (あれ、そう言えばさっきの状況、どこかで見たような……どこだったっけ……?) 先程自分が女賢者と遭遇してから銃で豹獣人を撃退するまでの流れと、 よく似た体験を樹里はしていたのだが、よく思い出せないでいた。 豹青年――篠原昌信はある木の根元にもたれ掛かり、 上着を破いて銃弾を受けた右肩に巻き応急処置を施していた。 「くそっ、あのアマ……血が止まらねえぞ」 激痛に耐えながら鋭い牙の並んだ口で破いた上着の切れ端を引っ張る。 銃創からは少なくない量の血液が流れ落ち、黄色い毛皮に黒い斑点模様のある、 豹獣人の毛皮を赤く濡らす。 「次会ったら、絶対殺してやるっ……」 僅かに葉の間から空が覗く天を仰ぎながら、怒りの籠った口調で昌信は言った。 【一日目/朝方/G-7山道西】 【女賢者@ドラゴンクエストⅢ】 [状態]肉体的疲労(中)、恐怖(中) [装備]サバイバルナイフ [所持品]基本支給品一式、信号ラッパ [思考・行動] 基本:殺し合いはしない。生き残りたい。 1:樹里さんについて行く。 [備考] ※ゾーマ打倒以降からの参戦です。 ※呪文に制限が掛かっている事を知りました。 ※北沢樹里を自分と同じ世界の人間だと思っています。 ※本名は「フィーナ」という設定です。 【北沢樹里@自作キャラでバトルロワイアル】 [状態]健康 [装備]ウィンチェスターM1873(13/14) [所持品]基本支給品一式、.44-40ウィンチェスター弾(28)、栄養ドリンクセット(8) [思考・行動] 基本:今の所殺し合いをする気は無い。襲われたらそれなりに対処。 1:フィーナ(女賢者)から話を聞く。 2:クラスメイト達については保留。 [備考] ※自作ロワ死亡後からの参戦です。 【一日目/朝方/G-7山道東】 【篠原昌信@オリキャラ・新規組】 [状態]右肩に銃創(応急処置済だが出血が酷い) [装備]鉈 [所持品]基本支給品一式、不明支給品(本人確認済) [思考・行動] 基本:殺し合いに乗る。優勝を目指す。 1:茶髪セミロングの学生服姿の少女(北沢樹里)は今度会ったら絶対に殺す。 [備考] ※女賢者、北沢樹里(いずれも名前は知らない)の容姿を記憶しました。 ※G-7一帯に銃声が響きました。 ≪支給品紹介≫ 【サバイバルナイフ】 大型のシース(鞘付き)ナイフ。刃の背に金属を切断する鋸刃が付いている。 【信号ラッパ】 音楽を演奏する普通の楽器としてでは無く、 信号を周りに伝える道具(連絡手段)として主に用いられるラッパの一種。 【ウィンチェスターM1873】 1873年に発売されたレバーアクション小銃。 銃身下に長い筒型弾倉を持ち最大14発を装填可能。 美しい外観から登場から100年以上経過した現代でも人気の有る銃。 本ロワに登場する本銃が使用する弾薬、.44-40ウィンチェスター弾は拳銃弾。 【栄養ドリンクセット】 栄養ドリンクが8本でセットになっている物。 【鉈】 枝打ち、木を削る、雑草を払う、動物を解体するなどの目的で使われる刃物。 刀身が厚く丈夫で、刀身の重さを利用して叩き切る。 ≪オリキャラ紹介≫ 【名前】篠原昌信(しのはら・まさのぶ) 【年齢】20 【性別】男 【職業】大学生、ガソリンスタンドのバイト 【性格】明るく陽気だが、非常時には器の小ささを露呈する事も 【身体的特徴】豹の獣人。それなりに引き締まっている身体 【服装】黒いタンクトップの上に半袖の白い薄手のジャケット、灰色のズボン 【趣味】ツーリング 【特技】手先が器用 【経歴】高校一年の時に両親から、自分は父親が母親を強姦した結果生まれたのだと 聞かされた時、一時的に軽い鬱になった 【備考】狼や狐、竜ばかりじゃなくって猫科の獣人出そうとした結果がこれだよ! 黒き獣達 時系列順 [[]] 黒き獣達 投下順 [[]] ゲーム開始 女賢者 [[]] ゲーム開始 篠原昌信 [[]] ゲーム開始 北沢樹里 [[]]
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先駆作品への敬愛が強すぎる作品の一覧。 現在記事はありません。
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ふわふわのベッドとあったかいシーツ。 それらが合わさるとき、人はこの上ない快眠を手にすることが出来る。 そして、今も一人。 極上の眠りに落ちる、一人の王子が。 すやすや、すやすやと眠っている。 ゆっくり、ゆっくりと誘われて行く。 "夢"の世界へ…… 足を一歩、地面へと踏み出す。 踏みしめる足に力がうまく入らず、右によろけてしまう。 その体を支えようと、両手を地面に突き出す。 地を支える腕に力がうまく入らず、体ごと倒れ込んでしまう。 体の感覚を叩き込みながら、全身を使って立ち上がる。 そうしてまた、次の一歩を踏み出しては体勢を崩す。 そうしてまた、両手を突き出しては体ごと倒れ込む。 そうしてまた、全身の筋肉を使いながら起きあがる。 数え切れないほどの生傷を生み出しながら、グリフィスは確実に前へ進んで行く。 踏み込み、倒れ込み、起き上がり。 一連の動作を通じて、体の感覚を叩き込んでいく。 人の肉体とは、血液とは、筋肉とは、骨とは、神経とは、どう扱う物だったか。 まだ、自分が人間の体を持っていた頃の記憶を頼りに、ひとつずつ思い出していく。 ひとつずつ、ひとつずつ、我武者羅に思い出していく。 気がつけば勇者の放った雷の方へと、その体は動いていた。 少しずつ感覚を取り戻していく体を使いながら、前へ進む。 勇者の放った雷の方、そこに聳え立つ山の中へ入り込む。 体を岩肌にあちこちぶつけ、生傷を擦り傷へと変貌させ、それでも前に進んでいく。 道中、奇妙な七体の像が置かれた広間に当たる。 中央の巨大な鳥の像の周りに、恐竜、髑髏、蛙、そして男三人の像が置かれている。 これらが何を意味するのか、さっぱり見当もつかない。 だが、グリフィスはしっかりと感じ取っていた。 この部屋に入ったとき、其々の像の"目"が光ったことを。 何とも言えぬおぞましさから、逃げるように先の部屋へと進む。 奥の部屋にあったのはたった一体の像。 強靭そうな鎧兜とマントを身に纏った、男のような像。 一見すると何の変哲もない像だが、グリフィスには何か特別な像のように見えた。 そう、まるで"あいつ"のような―――― 「ん……?」 未だに安定からは遠い体で、屈むような姿勢でその像を見つめていた。 今のグリフィスだからこそ、まるで小さな少年のような視点を持つことが出来た。 どう見ても怪しい何かが、像の傍にあることに気がついた。 そして、その怪しい何かには像とは対照的に埃がついていない。 自分より先に、何者かがこのスイッチに触れていると考えられる。 辺りから血の臭いはしない、ということは罠の類ではなさそうだと考えていい。 恐れることなく、その何かを押し込む。 像の台座から一本の道が現れる。 埃を被っているところに対し、誰かが通ったのか埃が綺麗になっているところがある。 つまり、誰かが先にこの道を通っているという事。 では、この先に何があるのか。 恐らく、歩んできた道から考えても山頂が近いのは分かる。 ならば、その山頂には何があるのか。 ひょっとすれば罠かもしれない、その罠に引っかかって戻ってこないというのも十分考えられる。 万が一、罠がないとすれば先に登っている筈の"誰か"は何をしているのか? 何もないなら何もないで、下山途中に自分と遭遇するはずだ。 なんにせよ人がいる事、そして頂上に何かあるのは確実だ。 上手く動かない体にムチを打ちながら、グリフィスは山頂を目指して動く。 辿り着いた先で見た。 昇り始める太陽と、辺りを一望出来る景色を。 先ほどより一回り大きい"あいつ"のような像を。 そして、その中ですやすやと寝息を立てる。 一人の、黒髪の少年の姿を。 雷の発生した場所は山頂。 そして自分が歩いてきた道中では、誰にも出くわすことはなかった。 ならば、この少年が雷を打った張本人だろう。 ……あまりにも、信じがたい出来事だが。 グリフィスは考える。 この僅かな情報を手に、これから自分がどう動くべきなのか。 この動かない体と、手にした情報と、この状況でどう動くべきなのか。 まず、少年の命をここで奪い去ってしまうのは、あまりにも愚策。 自分は夢の為に屍を積み上げるのが目的だが、そのために手当たり次第に殺戮するのは良策とはいえない。 ましてや赤ん坊のようにはいずりながら移動するのがやっとの今の自分では、力を取り戻すまで生き残れないだろう。 本当はこの少年について知りたいところだが、偵察スコープはまだ使うことが出来ない。 ならば、この少年について考える。 何故、雷を打ったのか? 何故、人目につくような行動に出たのか? 仮に、この姿からは考えられないほどの邪悪を抱えた殺戮者であるとすれば。 そこまで考えてから、その可能性をまずは振り払う。 そもそも、この少年はあの隠し通路を通ってきている。 わざわざ山頂方面へ向かうより、下山して獲物を探すほうがよっぽど効率がいい。 殺し合いには乗っているものの、眠たかったので寝れる場所を探して山頂まで来ましたと考えるには少し無理がある。 となると、この少年が殺し合いに乗っているという線は薄くなる。 連鎖するように答えが見つかっていくもので、とするとあの雷は仲間を集う狼煙のような物だったのだろう。 誰が集まるかわからないというこの状況なのに、悠長に眠りに着く事ができるのは余裕の表れか。 とはいえあの雷を自在に操る力は、確実にある。 そして殺戮に乗っている線は薄く、それどころか仲間を募っている可能性が高い。 つまり、この少年も力を欲しているのだ。 ならば、この機会を利用しない手はない。 殺し合いを打破するという建前を持って少年の傘下に入り、体の感覚を取り戻すまで共に過ごす。 いつかのあの時と似ているようで少し違う方法を取るのが、恐らく最善の一手。 一時的な隠れ蓑としては十分な環境だろう。 この少年が戦闘面でどこまで役に立つのかは未知数だが、あの雷を操るほどの力があるのならば、強力な仲間であることには違いない。 何時手のひらを返し反旗を掲げるのか、それは処分の方法と共に追々考えて行けばいい。 「……う、ううん」 その時、ベッドの上で眠る少年が目を擦りながら起き上がってきた。 傷つき倒れそうな青年を演じるために、近くの適当な場所に倒れこむ。 道中で作ってきた傷が、上手く作用してくれそうだ。 一瞬で頭の中に言葉が次々に浮かんでくる。 彼をを味方につける、貧弱な"平民"の言葉が。 準備は揃った、あとは演じるだけだ。 オレが目指す、"夢"の世界へ辿り着くために。 ここは、まだ"夢"の途中。 倒れるわけにはいかないから、なんだって利用してみせる。 【D-6 /魔王山最深部/1日目/早朝】 【主人公の息子@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】 [状態]:健康 [道具]:基本支給品1式(松明をひとつ消費しました)、不明支給品1~3 [思考・状況] 基本行動方針:ワルモノを倒してみんなで帰る 1:ここに集められた人と合流して助け合う 2:少し石像が気になる。 [備考] ライデインによって山に落ちた雷が幾つか離れたエリアでも観測できるかもしれません。 【グリフィス@ベルセルク】 [状態]:左の歯数本欠損、身体感覚が戻りきっていない [装備]:なし [道具]:基本支給品、ていさつスコープ@MM2R(一日目朝まで使用不可)、不明支給品0~2 [思考・状況] 基本行動方針:夢のために屍を積み上げる 1:少年と交渉 2:感覚を取り戻すまで直接的な戦闘は避けたいが、ある程度したら積極的に動く。 [参戦時期]:フェムトへの転生途中 [備考] 容姿・能力は人間時のグリフィスのものです。拷問痕はなくなっています。 この殺し合いは転生のためのもの、参加者はベヘリットに関連した者だろうと考えています。 ていさつスコープの効果により、ライを介して葉隠散の容姿と名前の情報を得ました(散が参加者であることは認識していません)。 043:Love is Real? 投下順 045:イッツァソ○○アタック! 043:Love is Real? 時系列順 045:イッツァソ○○アタック! 012:東の山に…… 主人公の息子 :[[]] 016:星を知る者 グリフィス :[[]]
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389通常の名無しさんの3倍2019/11/06(水) 03 13 51.09ID uRRJ2sU00 ハンモックで寝てたな、このジュドーw デュオ「しかしノリノリだなあ、肉ネタ」 ハサウェイ「つい最近まで本気の戦闘続きだったとは思えないよね」 アルレット「この唐突な雰囲気チェンジ、なんか記憶にあるのよね」 デュオ「へえ、なんだよそれ?」 ビーチャ「オールアムロ観戦にビールいかがっすかー」 モンド「おセンにキャラメルもあるよ~」 アルレット「あ、思い出した!妖世紀水…」 デュオ「やめろよ、エターナっちまうぜぇ」 ハサウェイ「アルレットさん本当にいくつなんです?」 link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ
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(投稿者:エルス) 空を飛んで、地上で眠って、ふと思うことがある。 僕って言う存在はどうしようもなくちっぽけで、僕の頭の中にある知識だってちっぽけなんじゃないかって。 だって単純に計算してみれば、僕なんてたったの六十億分の一の内の一ってわけで、その中身だって六十億分の一なわけだ。 そうしてもっと考えてみると、知識ってやつは六十億以上あって、でも僕ら人間の頭って言うのは屋根裏部屋みたいな要領で、 その屋根裏部屋×6000000000って考えてみると、やっぱり僕の知識っていうのはそれほど大したことじゃないんだろう。 だって、六十億なんて数は僕にとっては膨大すぎて現実味のない数値であるし、なにより『西部戦線異状なし』で見事に食料を 盗み取った兵士が報酬に何を求めたかなんて知ってても、どっかのだれかが言った名言を覚えていても、小説を隅々まで記憶していても、 どうやったって屋根裏部屋×6000000000になんて勝てる訳ないし、勝てっこないんだ。 「それで?」 話を聞いてた坂井がつまらなそうに紫煙を吐き出す。坂井の部屋には小説が山のように積み重なっているっていうのに、こういう話には興味無いらしい。 僕は少し落胆したけど、それを顔に出すほど愚かではなかったし、なにより暇でしょうがないので話を続けようと努めてみる。 「そういうわけ」 「どうゆうわけだ?」 「そういうわけなの」 「だから、どうゆうわけだ?」 「自信満々で完璧な言葉とか、文章とか吐き出しても、結局は六十億分の一っていうアリみたいにちっぽけでしかないってわけ」 ようするに僕の大嫌いなマスコミのカメラマンにしても、あの化粧の装甲に身を固めた女記者にしても、六十億分の一。 この星の上でアリみたいに地面に這いつくばって生きてるやつら。僕だってそうだけど、やつらに比べたら僕はまだ良い方だ。 やつらマスコミっていうのは自分で体験もしてないことを体験してきましたみたいなことを当然みたいな顔で書き散らすんだ。 誰かがこう言ってた。人間が人間として生きていくのに一番大切なのは、頭の良し悪しではなく、心の良し悪しだって。 やつらのことを考えるだけで不機嫌になってくるけど、僕は煙草に火を点けて、紫煙を吐き出すことでそれを解消した。 「つまりはあれか、人間って言うのはちっぽけで無能な生き物だと?」 「そんなところだよ。僕が思ったことってだけで、特に何も主張は無いけど」 「主張もなにも間違ってはいないんだ。まあ、俺もそう思うことはあるがな」 坂井が紫煙を吐き出して、灰を灰皿に落とす。僕は紫煙を吐き出して、少し笑って見せた。 どうしてか分からないけど、僕と坂井は考えることが被ることがある。こうなると話のし甲斐があると思う。 記者に向かってサービスの応答をしているより、こっちのほうが僕は好きだ。 「孤独を味わうことで、人は自分に厳しく、他人に優しくなれる。いずれにせよ、人格が磨かれる」 「つまりは一人じゃ何も出来ないってことだよね。少なくとも僕は空を飛んだり、死んで見せたり出来るけど」 「まあな、人間一人の力なんて非力なものだし、はっきり言ってしまえば他の動物に比べて人間は劣っているとも言える。 山は山を必要としない。しかし、人は人を必要とするとも言うからな。人間は一人で生きて行くようにはできていないんだろう」 「そう考えると非力は割に自意識過剰だよね。言語と文字が発達したってだけで、今日のこれだから。動物だって言葉と文字を持てば今に人間は滅んじゃうよ」 「だから人間は亜人を差別してるんだろう。自分たちと違うからという意味ではなく、自分たちよりも優れているから、なんというか、防衛本能がそうさせるんだ」 「そうなるとGはどうなのかな? 僕はあれに知能があるようには見えないし、虫と大して変わらないと思うんだ」 「それについてはノーコメントで良いか?」 「どうして?」 「俺は専門家じゃないし、専門家にしても今この時点で出回ってる研究結果なんて信用できないものばっかりだ。あれで図鑑を作ってみると良い。昆虫図鑑みたいに適当に それっぽい写真と大まかな数値を書いただけの、馬鹿馬鹿しい本が一冊できるだけだ。はっきり言うと、Gについては専門家でも全然分かってないんだよ」 「何だ、それじゃ専門家なんていなくなればいいんだ」 坂井は口元を釣り上げて笑った。僕も少しだけ笑ってみる。 どうせまた考えが被ったんだろうけど。 「俺もそう思ってる」 「やっぱり」 「やっぱりとは何だ。失礼だな」 「失礼なんかじゃないよ。予想が当たって嬉しいんだ」 「ああ、なら良い。尖ってすまん」 「いや、別に良いよ。気にしてないし」 僕は悪戯っぽく笑ってみる。上手く笑えたかは分からないけど、坂井は苦笑いして、煙草を灰皿に押し潰していた。 紫煙を天井に向かって吐く。天井に当たる前に紫煙は目視できなくなって、ソファに座る僕はその紫煙のやる気のなさを引き継いで、溜息を吐いた。 こうしてどうでも良いことを話し合うのは、暇潰しにはもってこいだけど、結局どうなんだと言われると、結果はないですって答えるしかない。 結果が出ない話し合いというのは、かなり滑稽な話なんだけど。 「坂井、暇だから言うよ。当に自信のある人間は泰然として、人が彼をどのように評価するか、などということにはあまり気をとられないものである」 「ヴォーヴナルグ。軍人だった奴かな。あまりよく知らん」 「なぜ死を恐れるのですか。まだ死を経験した人はいないではありませんか」 「ヴォ連の方の諺」 「真の知恵とは自分の無知を知る事である」 「ソクラテスだな。とんでも無く昔の言葉だ。それなのに無知ってのを知らない奴もいる」 「うん、そうだね。人々が自分に調和してくれるように望むのは非常に愚かだって知らない人もいる」 「それを言うなら今は生きているのが何か当然の事のように思っている奴もいるぞ。インテリに多いんだがな」 「インテリもマスコミも僕は嫌いだ。見てると吐き気がする。拳銃があったら撃ち殺しちゃうだろうね」 「危ないな。それで呼び出されるのは俺ときた。頼むから言葉通りのことをしないでくれ。分かったな?」 「分かったよ、坂井」 「なら良い」 坂井が二本目の煙草に火を点けると、その時に、基地のサイレンが鳴った。Gの接近を知らせる音だ。 「全く、宝来島のほうがまだマシかもしれん」 坂井が煙草を灰皿に置きながら言う。 かなり不機嫌なようで、一つ舌打ちした。 「愚痴はいいよ、早く出ないと僕らも危ない」 「そうだな、部隊長は俺だからな」 僕はふと思った。 前にこういうことがなかったか? 関連項目 茜 坂井 風朗
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「のっちぃぃーーーーー!!!」 遠くであたしを呼ぶ大声。 誰よ。恥ずかしいじゃん・・・。 大声で呼んだのは、ゆかちゃんだった。 パタパタとこっちへ走ってきた。 そしてあたしの腕に自分の腕を回した。 ゆかちゃんなのにまるで、あ〜ちゃんのような人なつっこさ。 「のっちぃ、これから午後まで授業ないんじゃろ?」 「う、うん」 「ゆかもないから一緒にいようよ」 「え?」 なんだ?ゆかちゃんがとってもフレンドリーだ。 急にどうしたんだろ?今まであたしには腕組みしてこなかったのに・・・。 心の声が顔に出てしまっていたみたいで、ゆかちゃんが不思議な顔をしてた。 「どしたの?のっち、すごくハノ字眉だよ?かわいい」 かわいい!?今まで、ゆかちゃんにそんなこと言われなかったから、ちょっとドキっとした。 「な、何?急に?か、かっしー、のっちに対してキャラ変わってね?」 ゆかちゃんに訊く。 「のっち、噛み噛みw。別に変わってないよぉ。普段どおりじゃけ」 「え〜、そ、そっかな?」 「そうなの!ねぇねぇ、それより大学抜け出してどっか行かん?」 「へ?ど、どこへ?」 「そうだ!映画見に行こう!!ゆか、今見たいやつあるんよね」 そう言って強引にゆかちゃんは、あたしを映画館へ連れてった。 ファーストデーでもなくレディースデーでもない平日の午前中の映画館は空いていた。 ゆかちゃんがチョイスした映画は、妹の些細な嘘のせいで、姉とその恋人が離れ離れになってしまう悲恋ものだった。 あたしたちは一番後ろの真ん中の席に座った。 周りには人はいない。広い会場にあたしたちを入れても10人いるかいないかだった。 結構おもしろい映画で、隣にゆかちゃんがいるのを忘れるくらい見入ってしまった。 突然、肘掛に置いていた左手を握られた。 握ったのは、隣に座っているゆかちゃんしかいない。 何で!?驚いた。 急なことにビックリして、映画そっちのけで、隣のゆかちゃんを見る。 でも、ゆかちゃんは素知らぬ顔でスクリーンに釘付け。 あたしは振り払うのも変だと思って、そのままゆかちゃんに握らした状態にした。 そのうち、放すだろうと思ったら、結局映画のエンドロールが終わるまで握られたままだった。 何故だ?何で彼女はあたしの手を握っていたんだ? 訊きたかった。でもなんとなく訊けない雰囲気だった。 「あ〜、なんかちょっと泣いちゃった。」 「・・・うん」 「え!それだけ?のっち、ちゃんと映画見てなかったの?」 「ちゃ、ちゃんと、見てたよ。お姉ちゃん役の女優さんキレイだったね」 あたしは誤魔化す。 「あんた、女優の顔しか見てなかったん?」 「そ、そんなことないけ・・・」 「まっいいや。のっちと映画の感想言い合うのは出来そうにもないけ・・・。そろそろ大学戻ろう?」 「うん。そうだね」 なんだか、ゆかちゃんのペースに振り回され放題。 「あっ!のっち、映画見たことあ〜ちゃんにはナイショね?」 「へ?なんで?」 「だって、ゆかとのっちが二人で見たって言ったら、あ〜ちゃん仲間はずれって思っちゃうかもしれんでしょ?」 「でも別にあ〜ちゃんは、そんなコトで仲間はずれされたなんて思わないんじゃない?」 あたしは珍しく反論する。 「そうだとしても!!それに、ナイショにしてた方がドキドキして刺激的じゃろ?」 ゆかちゃんはすごくヤンチャな笑顔で答えた。 『内緒にしてた方がドキドキして刺激的じゃろ?』 もしかして、この前のカレーを作ってくれた時のあ〜ちゃんも、こういう意味の内緒だったのかな? でも、あの時のあ〜ちゃんは、今みたいなゆかちゃんみたく楽しそうにしてなかったような・・・。 「のっち!!!」 考え込んでたら、またゆかちゃんに思いっきり大声で呼ばれた。 だから、大声で呼ばれるのは恥ずかしいのに・・・。 「もー、何ボーっとしとんの!!はよ、大学戻るよ!!」 ゆかちゃんは、またあたしの手を握って駅まで引っ張っていった。 大学に戻ってあ〜ちゃんとお昼を食べる為、二人で食堂で場所取り。 授業が終わったあ〜ちゃんがこっちに気づいて、手を振ってきた。 あたしたちも、手を振り返す。 「えー、二人とももう食べてるん?ちょっと、待っててくれてもよかったじゃん」 あ〜ちゃんは、あたしたちが先に牛丼と生姜焼き定食を食べていたのが気に食わなかったらしい。 「ごめんごめん。だってのっちが先に食べちゃおうぜ!って言ったから・・・。ゆかは待ってようって言ったのに・・・」 ゆかちゃんは、あたしに冤罪の罪を被せる気のようだ。 「ええー!?かっしー、それヒドくねw?あ、あ〜ちゃん!のっちはそんなコト一言も言ってないからね!!!」 あたしは全力で全否定。 「ふーん・・・。あ〜ちゃんは、ゆかちゃんのコトを信用するけぇ」 「え〜、マ、マジで・・・そりゃないよ・・・」 あたしはショボくれた。 ゆかちゃんはまたあのヤンチャ顔で笑ってる。 あ〜ちゃんは家から持ってきたお弁当を食べ始める。 あ〜ちゃんは、ショボくれているあたしに見かねて一言。 「もー、何時までヘコんでるんよ!あ〜ちゃん、もう怒ってないから、はよ食べんさい。食堂のおばさん片付け遅くなって困るじゃろ!」 「はい!!」 あたしは急いで牛丼を口にかきこんだ。 午後は三人一緒の授業。 午後の授業がすべて終えると、ゆかちゃんはバイトだ!!って叫んで、あっという間に帰ってしまった。 取り残されたあたしとあ〜ちゃん。 「のっちはバイトあるの?」 「いや・・・今日はないよ」 「・・・・」 「・・・・」 「・・・・」 「・・・・」 しばしの沈黙。 「・・・んじゃ、帰ろうか?」 あたしが沈黙を破る。 「のっち家に帰ってなんか、やることあんの?」 「ゲーム?かな」 「それって今日やらなきゃいけんことなの?」 「いや・・・別に今日じゃなくても平気だけど・・・」 「じゃあさ・・・一緒に映画とか見に行かない?」 「映画?」 「あー・・・嫌なら別にいいんじゃけど・・・」 これってデジャヴ? 一日に2回も映画に誘われてしまった。 別にそこまで映画好きってワケじゃないけど、折角あ〜ちゃんが誘ってくれてるんだ。 行くしかないでしょ! 「全然嫌じゃないよ。行こうよ、映画館!!」 「ほんまに?」 「うん!!」 あたしはまた午前中に、ゆかちゃんと一緒に行った映画館へ向かった。 着いた時間に間に合った上映作品は、午前中見た映画しかなかった。 あたしたちが席に着いたら丁度暗くなって、映画の予告編が流れた。 同じ映画だけど隣に座ってるのは、ゆかちゃんじゃなくて今はあ〜ちゃん。 それを意識してしまうと、益々映画に集中出来ないでいた。 一度見といてよかった。あ〜ちゃんに、感想聞かれても何とか答えられる。 二人の間にある肘掛にあ〜ちゃんの左手が置いてある。 あ〜ちゃんは、午前中のあたしみたいに映画に見入っている。 あたしは急にあ〜ちゃんに触りたくなった。すごく触りたかった。 だからあたしはゆかちゃんの真似をして、あ〜ちゃんの左手を握ってしまった。 すごい緊張した。 左手を握られたあ〜ちゃんは驚いて、あたしを見た。 スクリーンから放たれる光しか無い暗闇で目が合った。 その暗闇の中でもあ〜ちゃんの顔はよく見えた。まるで天使のような可愛さだ。 先に視線を逸らしたのはあ〜ちゃん。 そして、あたしの右手を握り返してきた。 あたしたちは映画のエンドロールが終わるまで、手を握り合ったままだった。 繋いでいる間、心臓がやまかしくて映画に集中出来なかった。 なんであの時、ゆかちゃんはあたしの手を握ったんだろう? なんであの時、あたしはあ〜ちゃんの手を握ってしまったんだろう? ゆかちゃんの時はただの気まぐれだと思ったんだ。 あ〜ちゃんの時は今思うと、やっぱり握っちゃいけなかったんだ・・・。 ごめんね。もう、謝っても手遅れなのかな・・・。
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imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 #1 Core Set (基本セット) #2 #3 Anarch (アナーク) Event (イベント) Play Cost (プレイコスト) 2 Influence Value (影響値) 2 Card Text Add 1 card (or up to 2 virus cards) from your heap to your grip. カードテキスト (日本語) 君のヒープのカード1枚(またはウィルスカード2枚まで)を君のグリップに加える。 Flavor Text Anything worth doing is worth doing twice. フレーバーテキスト (日本語) やる価値があるなら、二回やる価値もある Illus. (イラストレーター) Tim Durning
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私はあなたと別れたわ 私はとっても辛かった リボンのようにほどけていったわね 誰かが私のリボンを結んでくれたわ なんだか前に見た光景 あなたが結んだ私のリボンは あなたによってほどかれて 2つのひもになった私はどうすればいいの あなたは私と別れてね 別な女(ひと)と住み始めた 別なリボンを結んだのね 私もはやくしっかりと結んで くれる人を探さないとね あなたと出会った頃のようにね
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それなりの広さの境内とその奥に控える本堂が小山内さんら剣道部の面々を迎えた。 石畳の隙間を広げて伸びる野草や、落ち放題に落ちた花が、廃れた印象を抱かせる。 夕べの光が染めるセピアめいた色味が、余計に侘びしく見せているのかもしれない。 漆喰の剥がれが目立つ山門程ではないが、本堂も十分に古い。 「うはー、やっぱりぼろいですねえ」 「まーね。使ってる部屋なんかは、こざっぱりとしてるんだけど」 一応今のうちに誤解は解いておくとする。 わざわざ和尚が時間を割いて整えていたところを目撃してしまっているので、すぐに確認すれば分かる事とはいえ出来る限り早く誤解は解いておきたい。でないと少々不憫だ。まあ、あの和尚ならそんなこと気にしないんだろうけど。 「それは朗報です」 「ちょっと安心しました……」 純粋な感想を述べる百子と、心底心配していたのだろうか、胸を撫で下ろす桜井さん。 「こらこら、あなたたち失礼なこと言わないの。これからお世話になる場所なんだから――」 今まで大人しく聞いていた先生は、慌てて二人の生徒の無礼をたしなめようと口を開いた。 「いやいや、正直、大いに結構」 だがその言葉は途中で渋い声に遮られた。和尚と式がすぐ横手まで来ていたのだ。 「見ての通りのぼろ寺によく来なさった」 墨染めと輪袈裟を身に纏う和尚の隣でこれまた和服を着こなす式。結構様になっているのではなかろうか。 和尚は、名を体で表すかのごとく、「山寺の和尚さん」のような――というかまさに山寺の和尚さんなんだけど――出で立ちをしていた。 「でかっ!うちのじーちゃんよりもでかっ!」 ただ、背が高い。しかも筋骨逞しい。おそらく何かの武道をしていたのだろう。どうにも精進料理ばかりを食べてきた体には見えない。 「おや、驚かせてしまったかな?」 間近に立たれるとあたしでさえも壁のように感じる和尚の身長は、女子のそれにしても平均以下と思われる百子にととって、正しく遮壁だった。 「拙僧、咲森寺の住職にして唯一の僧侶、鈴木佑快と申しまする。ぼろくてすまんが、わしひとりではなかなか手がまわらんでのう。 鐘を撞いておったら、出迎えにも遅れる始末じゃ」 和尚が示す先には小さ目の鐘突堂がある。それもまた寺の古さに比例して一般的な鐘楼であるが、今時は少し珍しいのかもしれない。若の仕事に付き添って赴いた寺ではその過半数が自動式のものに切り替わっていたような気がする。 「では、先ほどの鐘は和尚さまが?」 「うむ」 むしろ未だ相変わらずの無言状態で背景と化している式が撞いている風景があったら、明日はきっと予定より早い嵐となっていたことだろう。 「心が現れるような響きでした」 ……そういえばこの子たち、ちゃんと式の存在に気付いているのだろうか。 「気に入っていただけたようで、それは何より」 まあ、本人が気にしていないようなので今は突っ込まないべきか。むしろメンドくさいと言わんがばかりにそっぽを向いてるわけだし。 「ですけど、随分と中途半端な時間に鳴らすものなんですね」 「まあ、確かにね……」 五時や六時といった、切り良い時間からは外れていたため、疑問に思ったのだろう。それを指摘された和尚はすこし眉間に皺を寄せた。 「ううむ、気付かれてしまいましたか。確かに中途半端な時間なのじゃが――見ての通りの貧乏寺でしてのう。自動撞木などというものには、とんと縁がない」 「え? 自動……ですか?」 「ふっふっふっ、近頃はそういったものがあるんじゃよ」 きょとんとした目になる桜井さんに、顎鬚を得意げにしごきながら和尚は続ける。むしろ、最近はそっちが多いと思うんだけど。 「この咲森寺のような、何とか暇なしの小さな寺であれ、檀家を抱え込み過ぎて、年中師走の巨刹であれ――」 途中、言葉と共に止めた手を袂にしまい込んで。 「毎朝毎夕、決まった時間に鐘を撞き続けるというのは、なかなかに難しいことなんじゃよ。 その難しいことをきちんとするのが、日々の修行というものなのじゃが、生憎とわししか人手がおらんのでのう」 「……あれ?」 至極残念そうに語る和尚を見て、小山内さんがこちらと、式を軽く見据えて疑問の意を上げる。 「喜屋武さんとそちらの方…はお寺の人じゃ?」 ちゃんと小山内さんの視界には式も含まれていたらしい。 「勝手に出迎えたりしてなんだけど、実はあたしも単なるお客さんなのよ。あー、もちろんさっきから一人むすっと和尚の隣に立っている人もね」 あたしの連れなのだ、と式の肩をポンと叩く。それを鬱陶しそうにする式と、じろりと強めに睨めつけてくる小山内さん。 「ま、寺の人間だなんて言ってないし?」 「…………」 小山内さんが納得いかなそうに唸る。話を切り替えようとしてか、中途半端な声が桜井さんから漏れた。 「えーと……」 桜井さんの視線が不機嫌そうにそっぽを向いている式に向けられる。 「この人はリョウギシキ。漢字はえーっと、易有太極 是生両儀 両儀生四象 四象生八卦 八卦定吉凶 吉凶生大業の両儀と式神の式ね」 実際のところ、両儀という苗字はこちらから来ているのではないかと思っている。あまりにも珍しいではないか、『両儀』だなんて。 「すみません。式の方はわかりましたけど、リョウギの方がわかりません!」 真剣に頭を悩ませて煙を上げようとしていた百子は敗北したかのようにぐったりとして己の内を吐露した。 「わたしもちょっと――」 「車両とか一両日の『両』に正義、講義とかの『義』?」 おしいっ。たしかにそう書くときもあるけれど。 「儀式の方の『儀』だ」 今まで黙っていた式がそう付け加えた。 「なるほど……」 「なんだか御二人揃って難しい名前ですね」 百子が問題を解決したためか、すぐに元気を取り戻して言う。 「そう?」 「そうか?」 式と同時に漏れた声が宙を舞う。なんでこんなところばかり息が合うのかねぇ、あたしたち。 「ですね。あまり聞いたことがないです」 「あたしの苗字はさっき言ったように、地区の名前だし、式の方はえーっと、何だったっけ?」 「……知らない。『何だったっけ?』なんて振っても最初から汀に説明した覚えもないぞ、オレ。強いていえばうちは武家だったらしいからそれが理由じゃないか?」 「あれ、そうだったっけ?」 おどけて場を繕う。どう考えてもただ、「武家だったから」なんて理由ではないと思うのはあたしの深読みだろうか。式は何かを隠している、そう思えて仕方がなかった。 「たしかに武士っぽい響きですよね」 とはいえ、周りを納得させるには十分な回答であった。 「汀。オレ先に部屋に戻ってるから」 対する式は彼女らに全く興味がないらしく、言うや否や背を向けて歩き出していた。 「愛想がないなぁ。まあ、求めるだけ無駄かもしれないけれど」 あたしと二人の時はあそこまで突慳貪ではないのだが。どうも式は自身に興味が湧く対象以外にはひどく無関心な所がある。あれ、逆に言えば、式にとってあたしは興味有る対象ということになるのか。それはそれで悪い気はしない。 「喜屋武さんと両儀さんってどういう関係なんですか?」 「ん?旅の連れだけど」 さっき言わなかったっけ。 「いえ、そういう意味ではなく」 「あー、そっちか。友達よ、友達」 式がここに居たら否定されていたかもしれないが、まあこのあたりが妥当な所ではないだろうか。ただの仕事仲間なんです、なんていうのはちょっといただけない。それに、これからなればいい話だし? 「友達……」 「あれ、そうは見えない?」 「見えないというか。失礼ですけど――避けられてますよね?」 「む――」 そんな事はないと思うんだけど。…ないよね? 「ふむ、わしはとても仲が良いと感じておったのじゃが」 「もちろん、仲なら良いわよ。ほら、式もあたしのこと呼び捨てにしてたでしょ?」 実際のところ、式が名字で呼ばれるのが嫌う性質があるせいで最初からこんな感じなのだが。今は誤魔化す手としてはいいカードかなと思う。 「たしかに『汀』って呼び捨てにしてましたね」 百子が先程の会話を思い出して、頷く。それをみると一応は納得したようで小山内さんは引き下がった。というより、深く聞きいるつもりもないのだろう。 「そういえば両儀さんはお幾つなのでしょうか?」 「あたしの一つ上。年齢的に学年で表せば高校3年生に値するかな」 「……“年齢的”?」 意外と目聡いなぁ。小山内さんって絶対後から小姑っぽくなるわよ。 「そんな細かい事まで気にしない!」 深い意味はないと手を振って示す。 「まあ、それ以上の事は本人に聞けばいいんじゃない?」 「たしかに、そうですね」 「本人のいないところでこういう話をするのもよくない、か」 「そういうこと」 そう言いつつも、小山内さんの視線は式が去ったほうに向いたままだった。 「む?」 不意に、和尚が目を細く眇めて小山内さんともう一人を見た。 「そこのお嬢さんとそちらのお嬢さん」 「「はい?」」 「お嬢さん方、こちらに来るのは初めてかね?」 自慢の髭を触りながら、そんな事を訊いていた。 「えっと……どうして……ですか?」 「わしの頭のこのあたりが――」 和尚、つるりと一撫でして。 「お嬢さん方に見覚えがあるような気がすると、何やら訴えておるのじゃが……」 困惑したように眉を寄せ、ぴしゃりと頭に刺激を与える。……むしろ逆に大切なものが何か抜け落ちそうな音だった。 そんな和尚にフォローを入れるべく百子が口を開いた。 「わかります、わかります。思い出せそうなのに思い出せないのって、気持ち悪いんですよねー。 それでざわっち、こっちの方に来たことは?」 「ふむ、そちらのお嬢さんは『何とかざわ』さんと申されるか」 「…………」 対する『何とかざわ』さんは、無言でちらりと小山内さんを見た後、申し訳なさそうに顔を伏せた。 「相沢保美……です。マネージャーをやっています。えっと、こっちに来るのは……初めてです」 「ふむ……。 珍しくない苗字じゃが、わしが知っとるどの相沢さんにも、該当するお嬢さんが思い当たらんわい」 むぅ、と唸り声を上げつつ頭をまた一撫でする。 「わしは職業柄、人の顔と名前には強い方――のはずなんじゃが」 はて、と首を捻る動作に連動して動く、和尚の視線を皆が追い、あたしももう一人の人物に視線を向けた。 「それで、オサ先輩は?」 「ん?」 百子に促された小山内さんは、ぐるりと周囲を見渡して、境内を囲む夏椿に目を向けた。 「長い――階段と――お寺――。 それから白い花にも、見覚えがあるような気がするんだけど――」 単語々々で記憶を遡っているのか、声が小さく漏れる。 「それ以上は覚えてないから」 最後にそう締めくった。 「お寺参りなんて珍しい出来事ですから、覚えていたりしそうですけど」 「そうでもないわよ」 桜井さんの言葉にすぐさま否定が入る。 「ないんですか?」 「秋子さん――お祖母ちゃんが旅行好きだったから、小さい頃はあちこち連れまわされたのよ」 なるほど。たしかに年寄りは何故だか、お寺だの神社だのを回る趣味があることが多い。 「お祖母さまと旅行三昧ですか。それはちょっと羨ましいですね」 「基本は寺社とか温泉とか。それも有名観光地を外した、通好みな所ばっかりだったけどね」 「子供が喜ぶ場所じゃないですよねぇ」 「それでも、良い思い出でしょう?」 げんなりする百子と比べ、それでも桜井さんにとっては羨ましいものに感じるらしい。小山内さんも桜井さんに頷き返した。 「確かにね。私と、秋子さんと――」 「そうそう。お寺や神社やその手の場所って、お年寄りの旅行先では、ベスト何位かには必ず食い込む人気スポットだと思うんですけど――。 和尚さんは別として、ご老体にあの長い階段は不親切きわまりないと思うんですよね」 「言われてみれば、確かにそうですね」 また記憶を遡っているらしい小山内さんを置いて、二人の会話は進む。 「お年を召した方だけでなく、小さな子供にもきついですよね」 声は聞こえているのか、小さく頷く小山内さん。一体何を思い出していればこんなに長く耽るというのだろうか。あたしは注意深く、彼女の動向を視た。 「なっちゃ―――」 そこで漏れた声にびくりと体に電気が走る。 「なっちゃんって、誰?」 あたしは上の空状態になっていた小山内さんに近寄り耳元で尋ねた。若干、いつもの軽々さを捨てた低い声で。 「――!?」 我に返った小山内さんは息を飲み込み、心臓を跳ねあがらせた。 「~~~~」 あたしはすぐに冷や汗を流す彼女から遠ざかり、にんまりと笑顔を作る。 「ねーねー、オサ、オサ。なっちゃんって誰―?」 あえて愛称で彼女を呼ぶ。 小山内さんは掌で顔を覆い、その甲であたしの向ける視線を遮った。 「喜屋武さんには関係ない人よ」 そう冷たく言い放つ彼女には、自身が愛称で呼ばれたことにすら気づける余裕がない。 「へー、そうなんだ」 ここは普通にスルーするべきだと判断。あまり深く尋ねるのはそれこそ野暮だ。――とはいえ、何だったというのだ、さっきの背筋に電気が走ったような感覚は。 「私の親戚――お母さんの従姉妹だもの」 「……ふむ」 何かを思案するように、あたしと小山内さんのやりとりに耳を傾けていた和尚は、髭をいじっていた手を袂に戻し。 「まあ、一期一会と言いますように、今日この時の出会いを大切にするのが良いでしょう」 と、締めくくり。 「それではお嬢さん方、案内しましょう」 言うや否や、彼女らの返事を待たずに歩き出した。……和服を着た人は返事を待つのを嫌うなんてジンクスでもあるのだろうか? ――――その頃、伽藍堂では――。 「どういうことですか?式が暫くこっちに帰ってこないって」 自身の上司である蒼崎橙子はさも面倒臭そうにこっちを見た。その顔からは、普段かけている眼鏡は外されている。 「頼んだ仕事が面倒なことになってね。黒桐、おまえは魔術もなしに鬼と渡り合う自信はあるか?」 はあ、やはりまたオカルト絡みなのか。うん、でもどうだろう?昔話では鬼が村を襲い、民が戦う姿はよくあることだけど。 「普通に考えて無理ですよ。僕はそもそも魔術なんて使えないですけど、銃を握ろうが、剣を握ろうが、結局僕は素人だし、そもそもそんなものを見た経験すらないんですから」 鬼。一般的には角が生えていて棍棒を振り回すようなイメージが強い。無論ながら、魔術師である橙子さんから漏れた言葉ということはそういうイメージを覆す現実がある可能性が高い。つまり、鬼は物語の世界だけのモノではなく、現実に存在するのだとも橙子は言っているのだ。 「だろうな。だが、お前は無理でもそれを可能とする集団がこの世界には存在する」 「え、鬼を倒す集団……ですか」 そんなものは初耳である。もしかして、僕たちが知らないだけで外国では普通に鬼が闊歩していたりするのだろうか。――いや、それはないだろう。例え外国であったとしてもそんな事実があるのならば僕たちの耳に入らない筈がない。 「そう、“鬼切部”という部署があり、そこから系列はさまざま。『何とか党』だの数を数えれば切れないほどの党が存在する。 今回私の下に来た依頼主の名前は『守天正武』。彼が属するのは鬼切部守天党といってね。その名の通り、鬼を切る事を仕事とする人間であり、守天党の長、鬼切役だ」 組織だって鬼を狩る、なんとも自分の現実からはかけ離れた話ではあるが、蒼崎橙子という人間は僕に全く関係のない話をするほどの暇人というわけではない。元々説明好きで話が長くはなりがちだが、それ一つ一つに意味があるというのは、ここで働き始めてすぐに理解した事だった。まあ、式は長話を嫌って、いつも要件をさっさと言えと不機嫌そうに催促をするのだけども。 「依頼の内容はなんだったんですか?」 「ああ、おまえも御伽噺で聞いたことはないか?蛇を倒したらその体の中から剣が出てきただの、山一つを一振りで半分にするほどの威力を持つ剣だとか」 たしかに聞いたことがある。昔話によくありがちな事だ。 「そういう話は完全に御伽噺だとおまえは思うか?」 「そうですね。全てがとは思いませんけど。何か物語のきっかけになるようなものが存在しなければ、まったくの思いつきで書かれた物ばかりだとは言い難いですね」 よろしい、と軽く橙子さんは頷く。 「いま黒桐自身が言ったように、だいたいの物語には原型(アーキタイプ)が存在する。何かそう思わせるような存在がなくてはならない。でなければ物語が派生することなどないのだからな。例えば式や私の魔眼もそうだ。実際にそういったものが存在するからこそ、いくら秘匿されていても噂という形で綻び、魔眼が現実の世界で想像(イメージ)という形を得て模造(トレース)されていく。魔眼が実在するというのを知らないときに、存在するのだと教えられても、そうそう信じられるものではないだろう? だが実在することを間近で見せられたとき、簡単な説明で頭にうまく情報を入り込ませやすいのは、そういった、予めに近くなくとも遠くない存在を御伽噺として頭に最初から蓄積させているからだ。その代わり、御伽噺を現実と受け止めるのはなかなかどうして難しい。何故ならそれは本人にとっての現実を覆すことが多いからだ。人はいつだって自身の現実にしがみついて生きている。そうでなければ、彼らにとっての“普通”であり続けることが適わなくなるからな」 たしかに僕たちにとっての現実は橙子さんの現実ではない。僕から見たら彼女や式が話す話はオカルトであって、真と知っていても、どこか信じたくないと思う自分がいる。だがそれが普通の人間にとって正しい感情なのだと、橙子さんは言う。 「つまり、そういった伝説上の武器が存在する、と」 「その通りだ。鬼切部守天党の役割は一般的にはその名の通り、鬼切だ。しかし、本来の――創設目的には別の理由が存在する。とある『神代の呪物の封印』。それが鬼切部守天党の存在意義さ」 神代の呪物……それはまさに神話や御伽噺でしか存在しないとされている存在。そしてそれを魔術とは別の力で秘匿し、数百年も昔から封印してきたのだと。 「彼らの長である守天正武は“万物全てを殺すことが出来る”魔眼に興味を抱いた。とりあえず、破壊できるかどうかだけでも見定めて欲しいとな」 「それで式が……」 話は振出しに戻り、一番聞きたかった真実が橙子さんの口から出る。だけど、僕が言うのもなんだけどさ。……よく式がそんな依頼を受けたなぁ。 「もちろん式はあまり乗り気ではなかったのだがね。その時に事件が起きた」 「事件、ですか……?」 「秘匿されていたはずの神代の呪物《剣》が、正武がこちらに依頼しに来ている間に、鬼に盗まれたのだそうだ」 組織の人間は全員、死に至る程の傷は受けていないそうだが、全治数か月のありさまで、まともに動けるのは戦いには敗れたものの比較的軽症だった少女一人だけだったらしい。何故、鬼が《剣》の存在を知っていたのか、その真実も未だわからず仕舞い。橙子さんとしてもオカルトが現実を闊歩するのは好まない。秘匿されるからこそ、価値があるという魔術師らしい理由を以て、彼らに協力することにしたようだ。 「えーと、つまり式は鬼退治の協力を?」 「正確に言えば、《剣》の奪還、または破壊のため、だな」 とりあえず、今はっきりと判るのはまたもや式は危ない目に自ら飛び込みに行ったらしい、ということだ。 「鬼退治はしなくてもいいんですか?」 「さてな。それは両儀式が判断する事だろう」 呟くように、空を見上げながら言う橙子さん。式次第ということだろうか、それとも“彼女”次第ということだろうか。 まあ、聞いても答えてはくれないんだろうな。 「それで、式はいま何処に?」 「鬼退治にはうってつけの場所、さ」 「はい?」 「鬼ヶ島…卯良島に最も近い地。卯奈咲さ」 後から情報を探っていて気付いたことだけど、卯奈咲や卯良島、その名前を持つ地はかなりにオカルト臭がする、いわくつきの場所であった。
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実験の準備 戻る ここでは,合成反応を行うのにあたって,実験前に考察すべき準備について述べる。 仕掛ける反応の種類を決定する 合成反応のまず最初の手順は,仕掛ける反応を決める事である。 どのような官能基変換が行いたいのか,カップリング反応を行いたいのかを決める。 反応を決める際には,SciFinderが役立つ。 参考となる文献を準備する 反応開発の研究でない限りは,これから行おうとする実験には必ず参考となる実験手順が存在する。つまり,過去に全く類似の反応例が存在しない反応をいきなり行うというのは無謀である。まずは,参考となる類似の実験例を探す。 科学論文 論文には実験項が記載されている。したがって,類似の反応を探し当てたならば,その論文の実験項に従って実験を行うのが第一選択である。 実験化学講座 化学実験のほとんど全てを網羅する実験書。この本に紹介されている方法は一般的に知られる反応であり,この本に記載される方法を組み合わせればほとんどの化合物が合成できる。この本の実験項には全て参考文献がひかれている。したがって,この本の実験を参考にする場合,必ずその参考文献をひいておく事。 自分の系に合わせて参考文献の実験項をアレンジする。 参考とする文献のうち,おそらく最初にアレンジするのは基質の種類と基質の量である。 基質の種類 できる限り似た基質を選ぶべきである。重要なのは,反応性の官能基のひとつを選択的に反応させるような場合,自分の基質に含まれる反応性官能基が参考文献の基質にも含まれているかどうか,さらにはその反応に官能基が持つかどうかである。 基質の量 用いる基質の量に応じて試薬等の量を変化させる。基質が参考文献の1/2ならば,試薬の量も1/2とする。 変化させるパラーメーターとそうでないパラーメーターを区別する事。 変化させるもの 変化させないもの 基質の質量 反応の時間 試薬の質量 反応の温度 溶媒の体積 分液操作の回数 試薬を加える速さ 基質・試薬の精製 化合物の純度は反応の成否を決定する重要な要素である。不純物として混入し得る化合物と,その除去法は様々であるが,一般的に考慮すべき要素は限られている。 なお,試薬の精製にはPerinが詳しい。 異性体 異性体の混入は,収率を大きく低下させる原因である。それは,異性体が基質とそっくりな官能基を持ち合わせているからである。特別な理由がない限り,異性体混合物で反応を仕掛けることはしない。 前回の反応の試薬カス 次に行う反応に邪魔をしないかどうか,吟味が必要である。 残留溶媒 分液操作やカラム精製,移し変えの際に用いた溶媒の混入である。 水 禁水反応において,水の混入は致命的である。 ベンゼン共沸で取り除く。